咲かない花。

遅咲きでも狂い咲きでも良かったんだけど、なんか咲かないっぽい。それが私。

リビングの白い悪魔

 エアコンの正式名称が『エアーコントローラー』ではなく『エアーコンディショナー』だと知ったのはいつの頃だったかは忘れたけどリビングのエアコンが壊れた。

 

 電源を入れると瓶ビールで町中華を楽しむオジが放つ長ゲップのごとき生暖かい風がわたしの顔面を撫でてゆくだけで一向に冷たくならない。

 

 冷たいといえば中学生の頃に周囲の女子たちが「男はやっぱり冷たい人の方がいいよねー」と口を揃えて言っていたので以後のわたしは冷たい男を演じて生きてきた。

 

 でも成人してから先輩に連れて行ってもらった場末のスナックのママが「アホか男は優しい方がいいに決まってんだろうがよぉ!」とタバコの煙をガッズィーラのように吹き出しながら言い放つ姿を見て以後のわたしは冷たい男から温かい男へと転生することに成功したから今の奥さんと結婚出来たのだと思う。

 

 それはそれとして全然エアーをコンディショニングしてくれなくなったエアコンはもはや文明の利器ではなくただ図体がデカいだけの白い悪魔と化し途端に忌々しい存在に思えてきたので「これが巷で噂の蛙化現象というやつか」とひとりごちてみる。

 

 やがてエアコンから「バフゥン」という謎の音色が奏でられたのを最後に送風すらされなくなったので葛城ミサトさんに「目標は完全に沈黙しました」と報告したい衝動に駆られるがここは我慢する。

 

 嘆いてばかりはいられないのでこの逆境を逆手に取り自由研究のテーマが決まらず困っていた次女に『8月初旬にエアコンが壊れたらどうなるか?』というテーマを与えたが研究するまでもなく答えは『死す』なので無事に自由研究完了。

 

 現時刻をもって当該エアコンを破棄するとともに我が家のリビングは人類が活動するに適さない環境と識別したので新しいエアコンを購入するまでは寝室を主な居住区にしようと思ったら寝室のエアコンも壊れた。

 

 我が家に起きている偶然とは言い難いこの不可解な現象から察するに謎の大きな力が働いていることだけは確かだがVIVANTが絡んでいないことだけを切に願いつつ終わりの言葉とさせていただきたい。