咲かない花。

遅咲きでも狂い咲きでも良かったんだけど、なんか咲かないっぽい。それが私。

山根康広論争

 キーボードで『スマフォ』と入力したら、テキストエディタが文字の下に赤線を引いてきた。「あなたが入力したかったのはスマフォじゃなくて『スマホ』じゃないの?」と言いたいらしい。

 

 キーボードで『スマートホン』と入力したら、また文字の下に赤線が引かれた。「スマートホンじゃなくて『スマートフォン』でしょ?」

 

 スマフォと打てばスマホと言い、スマートホンと打てばスマートフォンと答える。まるでコウモリのようなテキストエディタに翻弄されていたら、若かりし頃に友人と激論を交わした『山根康弘論争』を思い出した。

 

 山根康広さんというアーティストが歌う『Get Along Together』という曲がある。

 この曲の最後に「Forever We can get along together」という歌詞があるのだが、この『Forever』をめぐり、友人とカラオケボックスで激しい論争に発展した。

 

 山根康弘さんはこの『Forever』を「フォレバー」と発音して歌っていた。しかしわたしはフォレバーをフォエバーと歌った。友人はそれを聞き逃さなかった。待てと。ちょ待てよと。そこフォレバーだろうと。

 

 そんな事は百も承知だ。でもフォレバーは格好悪い。もちろん山根康広さんのせいじゃない。うまく言えないけど、何かものすごく格好が悪いんだ。だからフォエバーと歌った。

 

 友人はわたしのその説明には納得しなかった。本人と同じ発音で歌うべきだと繰り返した。発音的にはフォエバーよりもフォレバーが近いので、むしろフォエバーの方が数段恥ずかしいとまで言い切った。

 

 どちらで歌いたいかはわたしの気持ちの問題だ。本人と同じように歌わなければならないと言うなら、それはもはやモノマネではないか。わたしはモノマネをするためではなく、気持ちよく歌うために金と時間を使ってカラオケに来ているんだ。

 

 結局双方が納得できる落とし所を見つける事はできず物別れになった。その日を境にその友人とは疎遠になった。30年を経た今でも一切連絡はしていない。それが山根康広論争。

 

 でも30年以上経った今なら思う。タイムマシンでその場に駆けつけたい。そして当時のわたしの胸ぐらをつかんで言い聞かせたい。クッソどうでもいいよと。

 

 ここまで書いた後にYoutubeの映像を観なおしてみたら、そもそも山根康広さんはフォレバーではなくフォエバーと歌っていた。わたしと友人の単なる記憶違いだった。

 

 山根康広論争終結。解散。