咲かない花。

遅咲きでも狂い咲きでも良かったんだけど、なんか咲かないっぽい。それが私。

女子中学生とのすれ違い

 50メートルくらい先から女子中学生4人が歩いてくる。さして広くない道を横一列に広がって、端から端まで塞いでいる。

 

 彼女たちと接触するまでの時間はおよそ30秒。この間にわたしが取れる最善の行動は何か。来た道を戻る。限りなく存在感を消して端に寄る。いっそ奇声を上げて特攻する。

 

 絶望的な状況だ。だってわたしは知っている。彼女たちは避けない。女子中学生だぞ。1人ならまだしも4人。賭けてもいい。徒党を組んだ彼女たちが隊列を崩すことは決してない。

 

 女性が道を広がって歩くのは、人間が狩猟生活をしていた頃の名残りと聞いたことがある。男性が狩りに出ている間、村という閉鎖的なコミュニティの中で生活していた女性にとって、グループ内の序列は生きていく上で非常に重要だった。

 

 現代に置き換えれば、女性が複数で道を歩いている時に自分だけ後ろに下がることは、グループ内での序列が下がることにつながる。だから横に広がる。決してすれ違う相手を軽く見ているわけではない。

 

 うるせえ。そんなの知らねえ。ここは天下の往来だ。狩猟生活の名残りとか男女の脳の違いとか、そんな大層な話ではない。周囲に気を配って歩きましょうという、ごくごく簡単な理屈だ。

 狩猟生活をしていた頃の話を持ち出すのなら、男性が確実に多くの子孫を残すために複数の異性を求めるという太古の昔からの本能も受け入れてくれるのか?

 

 グループ内で序列が下がるのが嫌なら当番制にすればいい。前を歩く人と後ろを歩く人をローテーションで入れ替えよう。

 理解できないならドラゴンクエストの2か3をプレイして。それで全てが理解できる。



 わたしは彼女たちとの衝突こそ避けられはしたが、隊列を崩すことのなかった彼女たちの真ん中を通過するハメになってしまった。

 

 この結果は予測出来ていたので驚きはしないが、すれ違いざまに彼女たちの1人が言い放った言葉に、わたしは耳を疑った

 

「なにこのおっさんキモ!」

 

 聞き間違いだと信じたい。これからの日本を担う女子中学生たちが、広くもない道を4人で横並びで歩き、前から人が歩いて来るのを視認しておきながら我関せずで突き進み、ぶつかる寸前になっても隊列を一切崩そうとはせず、あまつさえ期せずして女子中学生たちの間を通ることになってしまった中年男性を捕まえて「なにこのおっさんキモ」などと言うはずがない。「奈美子のお父さんあん肝?」と言ったんだ。